新大陸からやってきた食材

ココアとチョコレート

ココアとチョコレートの元となる植物カカオもアメリカ原産です。

アメリカ原住民はすり潰したカカオ豆を煮て飲料として飲んでいた様ですが、これがスペインに持ち込まれ珍重されるようになります。

スペインから徐々にヨーロッパに伝わるのですが、一躍大流行という訳には行きませんでした。時期を同じくして同じ舶来飲料であるコーヒーと茶も流行します。

洗練された強力なライバルに対して、カカオは今だ不完全でした。酸味が強く、油が多く有体に言えば美味しくは無かっただろうと思います。

しかし1828年、オランダ人のバンホーテンがカカオを加工する画期的な発明をします。この発明によりカカオが今日あるようなココアやチョコレートに変わります。

バンホーテンの発明は主に2つで、アルカリにより酸味を中和する「ダッチプロセス」という処理、それとカカオをカカオマスココアバターに分離する機械です。

カカオマスからココアが作られ、カカオマスココアバターと調合する事でチョコレートが作られます。ダッチプロセスにより酸味も調和され美味しくなりました。

「大地のリンゴ」と「黄金のリンゴ」

新大陸からもたらされた食材に、「pomme de terre」、すなわち「大地のリンゴ」と呼ばれるものと、「pomme d'or」、すなわち「黄金のリンゴ」と呼ばれるものがあります。

何のことかご存じでしょうか?

「pomme de terre 大地のリンゴ」とはジャガイモの事、「pomme d'or 黄金のリンゴ」とはトマトの事です。

つまり、今日、西洋料理に欠かせないこの2つの食材はコロンブス以前は西洋社会には存在していない、知られてもいなかったという事です。

しかも両者ともに、西洋社会に持ち込まれて暫くの間は誰も食べたがらずもっぱら観賞用だったというから驚きです。もっともジャガイモは芽に毒があり、トマトは真っ赤な見た目で、初心者が敬遠してしまう気持ちも分からなくもありません。

ジャガイモとトマトはどのように西洋料理に取り込まれていったか説明します。

ジャガイモ

新大陸からヨーロッパに持ち込まれたジャガイモは、食用としては長い「不遇」の時代の末、18世紀にスウェーデンプロシアで食用としての価値が認められ国策で食用として栽培が推奨されるようになります。

このプロシアに、七年戦争で捕虜になったフランス人パルマンティエという人物が連行されてきました。捕虜に与えられた食事はジャガイモだったようで、まだまだジャガイモはそういう地位の食べ物だった事を示しています。しかしパルマンティエは、初めて食べたジャガイモに注目し、解放されフランスに帰ってから国王ルイ16世にジャガイモの食用化を進言します。これがフランス料理にジャガイモが取り入れられるスタートとなります。

その後パルマンティエはジャガイモの栽培と食用化の研究をライフワークとし、その功績から今でもいくつかのジャガイモ料理に彼の名が付けられています。

  • アシ・パルマンティエ Hachis Parmentier

パルマンティエといえば、これを思い浮かべる人も多いかもしれません。肉の細切れとジャガイモで作ったグラタンの事です。「アシ Hachis」は「細切れ」です。

  • ウー・パルマンティエ Œufs Parmentier

「ウー Œufs」は卵の事、「ウフ Œuf」の複数形です。

ジャガイモで作った器に卵を入れて、クリームをかけて焼いた料理です。

  • ポム・アンナ

19世紀の伝説的料理人であるデュグレレが考案した有名な料理です。

輪切りにしたじゃがいも並べてバターで煮て作ります。

名前の由来はデュグレレのお気に入りの娼婦の名です。いまそんな事をしたらコンプライアンス違反で叩かれそうです。

  • ヴィシソワーズ

冷製のジャガイモのポタージュです。

夏の暑い時期、食欲ゼロでもこれなら美味しく食べられます。

ちなみにヴィシソワーズとは「ヴィシー風」という意味です。考案した料理人の出身地に因んでいます。

トマト

トマトもスペイン人によって新大陸からもたらされた食材ですが、食用として普及したのは18~19世紀くらいだったようです。

ヨーロッパでトマトがブレイクしたのは、フランスではなくナポリ王国でした。トマトはフランス語で「pomme d'or 黄金のリンゴ」と紹介しましたが、フランスでの呼称は「tomate」の方が主流となり「pomme d'or」は今では余り使われないようです。その代わり「黄金のリンゴ」はイタリアで定着し、今でもイタリア人はトマトを「pomodoro ポモドーロ」と呼んでいます。

長い間嫌われものだったトマトはイタリア、特にナポリで出世を果たし、今ではイタリア料理の顔となっています。

七面鳥は何故「ターキー(トルコ)」?

七面鳥は新大陸(アメリカ)からヨーロッパに持ち込まれた鳥で、今ではすっかり食材と定着しています。
ブリア・サヴァランは七面鳥は新大陸がもたらした食材の中で、高雅とは言わないが最も美味な食材と称しています。変な表現がかえって七面鳥の美味しさの特徴をよく表しています。
七面鳥は英語で「turkey」と言いますが、要するに「トルコ鶏」と呼ばれています。

はてさて何故そのような名前が就いたのでしょう。

ネットの記事では、七面鳥が英語でトルコ鶏と呼ばれるのはホロホロ鳥と混同したためという説明が多いようですが、おそらくこれは別の混同話と混同した誤りでしょう。

なぜならホロホロ鳥はアフリカ原産、古代ローマ時代から食されている鳥で、ローマ人は「ヌミィディア鳥 Pullum Numidicum」と呼んでいました。トルコという国さえない時代のことです。

「トルコ鶏」の由来について確かなことは分かりませんがイギリス人が最初に七面鳥を知ったのはトルコ商人を通してのことだったのでしょう。

実は七面鳥を「トルコ鶏」と称するのは英語だけで、フランス語では「poulet d'inde インド鶏」と呼んでいます。「インド」とは西インド、すなわちアメリカ大陸のことですのでこちらは妥当なネーミングと言えます。

今日のフランス語では「poulet d'inde」が約まって「dindon♂/dinde♀」と呼ばれています。英語であれ、フランス語であれ、七面鳥を意味する単語は語源を忘れられるくらいに定着したということでしょう。

ところで冒頭で別のホロホロ鳥との混同話と混同していると述べましたが、「別の混同話」の方の話もしておきます。

ホロホロ鳥ギリシャ神話に登場する鳥です。英雄メレアグロスの死を嘆いてその姉妹がホロホロと泣き続けて姿が変わりホロホロ鳥になったと神話は伝えていますが、この話に因んでホロホロ鳥の学名は「Numida meleagris ヌミディアのメレアグロス姉妹」とされています。学者も風雅なネーミングをするものです。

ただ残念ながら、七面鳥を始めてみた学者はこれをホロホロ鳥の仲間と勘違いしたようで、その学名を「Meleagris gallopavo」と名付けてしまいました。七面鳥ホロホロ鳥ともメレアグロスとも関係ないわけですからこれは不適切でした。

七面鳥ホロホロ鳥のネーミングに関わる話はなかなか面白いと思うのですが、最も面白いネーミングをしたのは日本人でしょう。

七面鳥」「ホロホロ鳥

かなりイケてますよね。